先日、JAXAの宇宙飛行士候補生が発表され、世界銀行の上級防災専門官である諏訪理さん(46)と、日本赤十字社医療センターの外科医である米田あゆさん(28)さんが選ばれました。
これまでの宇宙飛行士の選抜試験にあった「自然科学系の大学卒業以上」という応募資格が今回から撤廃されたこともあり、4000人強の応募があったようです。
今回の選考試験では「表現力・発信力」を評価するために「自己アピール」の項目が新たに加えられたほか、プレゼンテーション試験がとても重視されたそうです。
その結果、選ばれたお二人は理系ですが、その経歴はかなりユニークです。
宇宙開発にも人材の多様性が求められている
諏訪さんは世界銀行勤務ですが、過去にはJICAの青年海外協力隊でルワンダに派遣され、現地で教育に携わっておられました。
また、アメリカで気象について研究をしている際は、南極に滞在した経験もあるとのこと。
現在はアフリカの気候変動や防災に関する取り組みに従事されています。
グローバルかつ、領域を超えた経歴を有している点は、特筆すべきことだと思います。
今回の候補生はNASAが主導するアルテミス計画で月面着陸を目指すそうですが、アメリカは、アフリカ系と女性の飛行士を月面に着陸させる必要があるとして、候補生の半分がアフリカ系と女性です。
バイデン大統領も、宇宙飛行士が多様化することが月に恒久的な研究基地を設立するという目標を達成するのに役立つと述べています。
JAXAの選考試験の応募資格が緩和されたことも、宇宙飛行士の多様性を担保するためであったはずです。
(JAXAの職員の3分の2は工学系出身の男性なので、いかに今回の選抜試験が新しい試みであったかがわかります。学歴不問というのは世界的にみても非常に異例のようです。)
本blogではかねてから、企業も人材の多様性を担保していくことが必要であると同時に、「人」も一つの専門性にとらわれずに、多様な経験や実績をかけあわせていくことで独自の強みになると述べてきました。
(参考コラム:ポートフォリオワーカーという働き方~選択肢をもつことの強み)
会見で諏訪理さんが話されたことがとても印象的です。
「この年齢で選抜していただいたということは、今までの経験と今後、宇宙飛行士人生を歩んで行くなかで、今までの経験との掛け算で、どうやって付加価値を社会につくる、貢献ができるようになっていくのか。きっと問われると思っております」
医学×アートで広がる可能性
もう一人の候補生である米田あゆさんの経歴も実にユニークです。
現在は28歳の若き外科医ですが、高校時代にはスイスへの留学経験もあり、スポーツではテニスやヨットで全国大会に出場した経験もあるようです。
いくつもの経験と専門性を兼ねそろえた背景には、凡人には考えられない才能とチャレンジ精神や努力があるのだと思いますが、個人的に素晴らしいと感じたのは、外科医をしながら、芸術の大学院でデザインの研究をしているという点です。
京都芸術大学の担当教授へのインタビュー記事によると、米田さんは「医療の世界にもデザイン力が必要なのではないか」と問題意識を持ち、「遊び心を持っていると幸福度が高まる」という理念を基に、他人とのコミュニケーションデザイン(デザイン=計画策定や目的設定の意)で、社会にあふれる問題を解決していこうという研究をされているそうです。
ただ単に、医学的な方法論だけで患者に向き合うのではなく、別の方法論も必要だから勉強するという姿勢と行動力にはただただ感銘を受けるばかりです。
米田さんも諏訪さんと同じく、視点や経験の多様性をご自身で獲得しています。
また、米田さんはそのなかで芸術やデザインの重要性に問題意識を抱いているところが、何よりも素晴らしい。
この点は、最近の報道番組で宇宙飛行士の野口聡一氏も触れていましたが、アップルやテスラでもいまや「アート」が重要になってきて、それは宇宙開発でも同様だと。
宇宙はまさに未知の世界であり、既存の枠組みが通用しない世界。
そこでは、ゼロから新しいものを生み出すアートの視点が必要なのは必然で、アート思考が生み出した新しいものを、デザイン力で計画や目的設定に具現化・体系化していく。
以前、「イノベーションの実現には、アート・デザイン・テクノロジーが必要だ」というコラムを書きましたが、宇宙飛行士も企業経営も、時代の要請は共通していると思います。
未知なる世界を切りひらいていくために
いまや月面探査は宇宙での生存可能性ではなく、持続的な滞在の可能性を追求する時代になり、宇宙開発は国家だけではなく民間の参入も相次いでいます。
一方で、参入件数でいえば、日本は世界で100位以下だそうです。
その背景には、資金力のほかに、失敗を恐れずに新しい領域へチャレンジし、未知の世界を切り開いていく気概と支援が足りない点があるように感じます。
また、どうしてそれが必要かを説明して、共感を得るプレゼンテーション能力も他国に比べると控え目だと思います。(今回の宇宙飛行士選抜試験で最も重視された能力です。)
こうした点は、いわずもがな、国内経済についても同じ。
1人1人がさまざまなことにチャレンジして、多様な視点と経験を体得し、それを生かして、未知なる世界を切り開いていく。
いろんなことを経験するなかで、課題が何かを察知する感性を養い、客観的な思考と主観的な思考を行き来しながら、課題解決への革新的な道筋を見出す。
今回選ばれたお二人の宇宙飛行士候補生は、諏訪さんが歴代最年長で米田さんが歴代最年少タイだそうです。
何かを始めるのに遅い早いは関係ありません。
企業も人も、もっともっと頑張れる!
経営者でまだ実践していないのなら、いますぐにでもダイバーシティ経営へのかじ取りを。
個人で何かを始めたいと思っている人は、自分の人生を豊かにするための挑戦を。
そう思わせてくれた宇宙飛行士候補生のニュースでした。
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