今年の7月~8月に共同通信が全国の自治体首長を対象に行った人口減少に関するアンケートで、「自治体が消滅しかねない」と危機感を抱く首長が8割を超えたという。
将来消滅する可能性がある「消滅可能性都市」が発表されたのは2014年。
そのインパクトは大きく、危機を回避する取り組みが盛んに称揚されたにも関わらず、消滅の危機感を抱く首長は、2015年より増加した。
(2015年:77% → 2023年:84% 共同通信 2023年9月16日発表)
「消滅可能性都市」とは
「消滅可能性都市」とは、民間の有識者からなる「日本創生会議」(座長:増田寛也氏)が2014年に問題提起したもので、「2010年から2040年にかけて、20 ~39歳の若年女性人口が 5 割以下に減少する市区町村」のことだ。
その推計は、全国1799自治体のうち、実に896(49.8%)に上った。
自治体が存続できないほどの人口減少の2大要因として挙げられているのは、20歳~39歳の女性の減少と地方から大都市への若者の流出である(特に東京への一極集中)。
そして、人口減少は消費の減少をもたらし、仕事を減らし、所得が減り、さらに人口が減っていくという負のスパイラルを生じさせるという問題をはっきりと提示した。
当時の安倍政権による「地方創生」を推し進める中での提言であったが、10年近くを経て、全体として地方創生は成功しているとは言い難く、むしろ状況は悪化し、危機感が増幅しているのは大きな問題だと思う。
どのような取り組みが成功しているか
一方で、小さな地方自治体でも知恵をしぼった施策で人口減少と少子化を食い止め、持続可能なまちづくりを成功させている例もある。
① 秋田県内で唯一、消滅可能性都市ではないとされた秋田県大潟村。
地方の農村の例にもれず、秋田県大潟村も2000年の3323人からわずかだが人口減少が続いているが、「2040年若年女性の人口増減率」(日本創成会議、2014年)では、秋田県で唯一増加が予測され、増加率15.2%は全国2位であった。
また、農家一戸当たりの平均年収が補助金も含めると2000万円を超えていると言われているのも大きな特徴である。
入植者によってつくられた大潟村は、専業の大規模農業が中心である一方で、「豊かで住みよい近代的な農村社会」を目指して設計された。
意図的に農地と離れた場所につくられた居住地域はコンパクトタウンで、衣食住・教育・医療・コミュニティなどが充実しており、住人の住みやすさが追求されているという。
地方から若者が離れる最大のきっかけは、大学(場合によっては高校)進学だ。
大潟村は、一度都会に出た出身者が、結婚や転職を機に戻ってきたいと思われるようなまちづくりを行っている。
村をあげて、地域資源で付加価値のある商品を作り、時代の変化のなかでも安定した収入と働きがいがある就労環境を実現させている。
仕事があり、教育環境も整い、子育て中の女性にも暮らしやすいまちとしごとがあれば、小さな村でも十分に存続できるという頼もしい例である。
➁ 出生率2.95の「奇跡の町」を実現した岡山県奈義町
人口減少と少子化を食い止めるには、若年女性の定住促進によって出生率を上げることが一丁目一番地である。
コロナ禍もあり、全国的に出生率と出生数が想定以上に深刻になるなかで、成功事例として注目されているのが岡山県奈義町の取り組みだ。
とにかく、若い人たちにとって住みよい町になるために、子育て環境を充実させたという。
保育料、子どもの医療費、教育費補助などの経済的なサポートとともに、利用しやすい一時保育や子育て世代の居場所など、精神的なサポート体制も整えた。
それだけではなく、町民のニーズをきく機会をもうけて、住環境を整備したり、働きやすい仕組みを導入するなど、住民主体で幅広い施策を10年以上続けた結果、2005年に1.41だった合計特殊出生率が2019年に2.95になったのだ。
仕事については、地域内外の小さな仕事をすくい上げて、住民でワークシェアできるようなモデルを構築している。
人口6000人弱の過疎の田舎町でも、取り組み次第でまちは発展できるのだ。
奈義町では、「少子化対策は最大の高齢者福祉」「高い出生率のカギは“安心”」とうたわれている。
人口維持の取り組みは、数字だけではなく、質がものをいうことを教えてくれる。
③ 20年で2割も人口が増加した北海道東川町
北海道旭川市に隣接し、観光地である旭岳が所在する東川町では移住希望者が多く、1994年に約7000人だった人口が2023年には約8600人に増加した。
立地の利便性は大潟村や奈義町に比べるとはるかに有利であるが、特筆すべきは、地域資源を活用し、デザインやアートの趣向を凝らした文化をつくりあげていること。
観光業と木工業の強みを活かし、優れたデザインの家具や日用品を集めたコレクションや、ハイセンスなカフェ・ベーカリーが繁盛し、建築家の隈研吾氏と連携した施設が話題を呼ぶなど、独特のカルチャーが若者や移住者を惹きつける。
また、「写真の町」という事業を1985年から実施しており、町民と町を訪れる人々が交流する文化発展の場としても定着している。
そこに、広大な敷地でスポーツや自然と存分に触れ合うことができ、壁がないオープンスタイルの教室や270mの廊下があるなど規格外のスケールを誇る東川小学校があり、隣の「旧東川小学校」の校舎もギャラリーやラウンジ、約5万冊を所蔵する図書スペースなどとして有効活用されている。さらには、幼保一元化施設も隣接している。
暮らしは上下水道が要らない豊かな地下水と美味しい食べ物に恵まれ、自然と一体化した美しい住環境があるとなれば、人口が増え続けているのも納得できる。
独特のまちづくりで成功している東川町には、「3つの“ない”はない」という考え方があるという。(参考:移住者続々、20年で2割も人口増)
1.予算がない 2.前例がない 3.他ではやってない
思考停止の原因となる3つの「ない」を言わないことを徹底し、自分たちの頭で考え抜く。
そして、実行する。
20年以上続く東川町の先進的なまちづくりが示唆することは多い。
持続可能なまちをつくるために
衝撃的だった消滅可能性都市の発表から約10年。
状況が悪化している自治体が多いなかで、人口維持/増加を実現させている自治体がある。
成功例に共通しているのは、短期目線の郊外型開発や企業誘致、有期モデル事業の実施などではない。
世代交代も可能な、地域の産業・強みに根ざしたまちづくりを行っている。
地域の強みに付加価値を付けたり、都市部と連携した就労モデルを構築したり、女性にも働きやすい仕組みを導入したりして、なるべく域内で生産したものを域内で循環させたり、域外に高く売ることで、安定したしごとを生み出している。
同時に、特に子育て世代に対しては経済的な支援と住環境・教育環境など、安心してくらせる制度や環境を充実させている。
何よりも重要なのは、その土地独自の風土・資源・産業・文化に価値を見出し、発信し、愛着をもってもらう努力を絶え間なく続けていること。
国がいうから、県がいうから、他がやっているから、では生き残れない。
特定の自治体が成功しているからといって、日本全体の人口が増えることを目指しているのではない。
しかし、人口が増えている自治体から、住みやすいまちのつくり方のヒントを得ることは全く無駄ではないと考える。
その土地の人たちによる、その土地の人たちのための面白い取り組みが全国の津々浦々から生まれることを願うばかりである。
Comentarios