「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている

November 3, 2017

 

 

教育が最も保守的な業界であり、そういう意味では、最もイノベーションが起きる可能性がある!
学校教育でできることは多い。学校教育は、多くのことを見直す時期にきている。

「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている

(2017年11月1日配信 WEDGE Infinity)

 

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「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている

 

公立中学が挑む教育改革(1)千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長インタビュー

 

多田慎介 (ライター)

 

東京のど真ん中に、一風変わった校長先生がいる。全校集会ではパワーポイントを使って生徒たちに「プレゼン」し、夏休みに課す宿題は最低限の作文だけ。外部企業や研究者、大学生などを巻き込んだ「オープンイノベーション」にも積極的に取り組む。驚かされるのは、その舞台が公立中学校であることだ。自由な裁量がほとんどないと思われる公立校で、変革に向けた新たな施策が次々と導入されている。その実像を追った。

 

ビジュアル重視のスライドで生徒へ「プレゼン」

 

「みんな元気? 夏休みは充実していたかな? 元気な人はまあいいや。今日は、元気じゃない人だけに話をしよう」

 9月1日の第2学期始業式。千代田区立麹町中学校校長の工藤勇一氏(57)は生徒たちの前に立ち、そう話し始めた。どんな学校にもある「校長先生のお話」だが、麹町中学校のそれはおそらく、多くの大人たちが思い返す光景とは異なるだろう。

 演台のスクリーンには工藤氏がこの日のために作ったパワーポイント資料が映し出される。リモコンでスライドをめくると、大きな砂時計の絵が現れた。

 

「夏休みが終わってしまい、『やることがたくさんあって嫌だな』と思っている人が多いかもしれない。砂時計に例えるなら、上の部分にまだまだたくさん砂が残っている状態だね」

「ここで、砂時計の真ん中あたりを拡大して見てみよう。砂がたくさんあっても残り少なくなっても、下に落ちるスピードは変わらない。人間も同じで、やることがたくさんあってもほとんど片付いていても、進むスピードは同じなんだよね」

 

「やらなきゃいけないことがたくさんあるときは憂うつになって、進むスピードが遅いと感じてしまうことがある。人間は思い込んでしまう生き物なんだな。大人たちのビジネスの世界では、そんな状況に陥らないための『マインドセット』が大切だと言われている」

「やることがたくさんあるときも、今この瞬間、目の前のことに全力で取り組めていれば、良い生き方をしていると言えるんじゃないかな。みんなもぜひ、そんなマインドセットをしてほしい。それでも元気になれない人は話を聞くから、校長室においで」

 

 始業式に臨む工藤氏の姿は、若手社員に向けて理念を語る起業家のようだ。事実、工藤氏は「生徒たちへ語りかけるときは、いつもプレゼンだと思っている」と話す。プレゼンを聞いて、実際に校長室を訪れる生徒もいる。

 

「中学校は社会で活躍する人材を育てるための場所です。生徒たちが大人になり、人前で話すときに、聞いてくれない相手を叱る人はいません。だから教員が『校長先生の話をちゃんと聞きなさい』と指導する姿なんて見せてはいけない。話を聞いてもらえないのは校長の責任ですよ。言葉は伝わることが大事で、分かりやすく伝えなければ意味がないと考えています。生徒たちが『聞きたい』と思うような話をする。ビジネスの場では当たり前のことですよね」

 

 工藤氏が作るスライドには文字がほとんどない。写真や画像を多用して、語りかけるメッセージを補足していく。ビジュアル重視のプレゼンスタイルは「アメリカ大手IT企業の役員プレゼンから影響を受けた」のだという。このやり方は今や工藤氏の定番となり、入学式や卒業式といった最重要行事の式辞にも趣向を凝らしたスライドを準備しているのだそうだ。

 

 

教育現場にはびこる「目的と手段の履き違え」

 

 第三者から見て型破りに思えるのは式辞だけではない。今年の夏休み、麹町中学校ではほとんど宿題が出なかった。生徒に課したのは、どうしても外せなかった千代田区指定の作文だけだったという。同校が極力宿題を出さないようにしているのは、工藤氏の教育方針によるものだ。

 

「多くの教員は勉強することの意味を履き違えてしまっていると思います。だからむやみやたらに宿題を出す。本来の勉強の意味とは、生徒たちが『分かる』『分からない』を自覚し、分からないことを分かるようにすることです。一律に宿題を課せば、すでに分かる状態にある生徒に無駄な時間を強いることになります」

 

 工藤氏が例に挙げるのは、最多連勝記録を塗り替えて話題となった中学3年生のプロ棋士、藤井聡太四段のエピソードだ。その人柄を伝える報道の中で、「藤井四段は宿題をやらない」と紹介された。担任教諭に対して「授業をきちっと聞いているのに、なぜ宿題をやる必要があるのか」と語ったという。

 

「藤井四段の言いたいことはよく理解できます。自分にはすでに分かっている範囲のことなのに、単なる作業として宿題に取り組み提出しなければならない。優秀な成績を収め、『やりたいこと』が明確な生徒にも一律に同じ内容の宿題を課すことが、正しい教育だと言えるでしょうか?」

 

「私が見てきた限り、宿題を課された生徒は分かる範囲には積極的に取り組みます。しかし残り2割ほどの分からない範囲はやらない。それでも8割はできているから教員はOKを出すんです。これで『宿題を出すというタスク』が完了したことになる。このやり方では学力は伸びません」

 

 こうした問題について、工藤氏は「目的と手段を履き違えている」と語る。

 

 学校は社会で活躍する人材を育てる場所である。そのことは多くの教員が認識しているはずなのに、気づけば学校にとって都合の良い生徒を作ろうとしてしまう。宿題をやらせることが目的になっているのはその典型例なのだという。

 

 手段が目的化している例は他にもある。学習指導要領で定められた道徳や総合学習の時間を埋めるために作文や目標を頻繁に書かせたり、学級新聞の制作に協力することそのものが目的になっていたり。

 

「作文にちゃんと取り組まない生徒はダメ、学級新聞の制作に協力しない生徒はダメだと言われます。でも本来考えなければいけないのは、『その新聞、本当に誰かが読むの?』『何のために書くの?』ということ。これからの時代はむしろ『こんなの必要ないじゃん』と言える子が必要なのに、教育現場では真逆のことをしているわけです」

 

 

外部を巻き込む「オープンイノベーション」で教育現場を変える

 

 自らの意志を持って社会に出ていく人材を育てるため、麹町中学校では年間を通してさまざまなカリキュラムを用意している。その1つが、現実社会と連動しながら生きる力を育む全国規模のプログラム「クエストエデュケーション」への参加だ。

 

 クエストエデュケーションでは、2年生が1年間の企業インターンを経験する。NTTドコモやクレディセゾンといった大手企業へ生徒たちがエントリーシートを書き、企業から出されるリアルな課題に対して自分たちでオリジナルの企画を考え、プレゼンテーションを行っている(生徒たちがプレゼンの際に使用するパワーポイントは、工藤氏の影響を受けたビジュアル重視のスタイルだ)。

 

 3年生では大手旅行代理店のJTBに対して、「自分たちの修学旅行企画」を提案する。取材旅行としてツアー企画を立て、2年生や保護者も呼んでプレゼンを行うのだ。旅行先では自分たちで取材し、写真を撮り、パンフレットを制作する。

 

 他にも、ビジネス研修プログラムさながらの「スキルアップ宿泊」や、大学法学部で民主主義によるリアルな対立を学ぶ「模擬裁判」、有名料理人の陳建一氏が教える「調理実習」、アフタースクールとして放課後に東京大学や東京理科大学の学生から学べる「麹中塾」(こうちゅうじゅく)など、独自の取り組みを進めている。

 

 外部企業や専門家、学生などを巻き込んで教育現場を変える「オープンイノベーション」は、工藤氏の真骨頂とも言える。「学習塾に通うことなく高いレベルの授業を受けられるため、保護者からも非常に喜ばれている」という。

 

 既成概念を打ち破り、公立中学校発の改革を次々と実現している工藤氏。この連載では、その活動の背景を探っていく。

 

2017年11月1日配信 WEDGE Infinity

 

 

 

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