「世界にとって一番」 ~B Corpのパーパス~
SDGsやCSR、ESG投資に対する注目が高まっている中、組織の取り組みを評価・開示する枠組みとして、ISO認証やGRIスタンダートは多くの企業によって使用されています。
しかし、15年も前から、環境や社会に対する企業の取り組みを推し進めてきたムーブメントがあります。
「B Corp」(ビーコープ)です。
B Corpとは、企業の公益性をより包括的に審査して、インパクトの創出を推し進めるために、米国のBLabという非営利団体によってつくられた国際的な認証制度です。
B Corpは、ビジネスの成功を再定義して、「世界で一番」を目指すのではなく、「世界にとって一番」を目指すものであり、認証企業同士でコミュニティやムーブメントをおこし、よりインクルーシブでサスティナブルな新しい経済セクターをつくることを目標としています。
これまでの資本主義経済は短期的な利益至上主義であり、株主の発言・権利が大きく、会社のパーパスが容易に変更されたり、社会や環境、従業員、顧客といったすべてのステークホルダーが恩恵を得るような仕組みにはなっていませんでした。
いま世界は、環境問題、ワークライフバランス、人権問題、ダイバーシティ&インクルージョンetc. 問題が山積しています。B Corpは、連帯しながら企業の社会的役割を変革し、構造化された社会問題の解決を推し進めていこうという試みでもあります。
「B Corpに注目してみてください。(中略)わたしたちの社会は、特定のステークホルダーだけが不当に優遇されるのではないステークホルダー社会に戻らなければなりません」
(ビル・クリントン元アメリカ大統領)
B Corp認証を取得するには
B Corpとなるためには、ビジネスの説明責任や透明性、社会的パフォーマンスや環境へのインパクトなどのB Labが定めた厳しい条件をクリアすることが必要です。
具体的には、5つの分野(従業員、コミュニティ、環境、ガバナンス、顧客)から構成される200点満点の評価基準(B Impact Assessment)において80点を獲得することが条件です。
たとえば、インクルージョンの度合いを測ったり、従業員やサプライヤー、地域社会とどのように向き合っているかを数値化したり、報酬体系の公平性や雇用採用の多様性を評価したりという項目があります。
※B Impact Assessment(BIA)は、無料で公開されています。(B Corp公式サイト)
5つの分野でのスコアを合算して80点を取得することが求められるため、環境に配慮しているだけとは限らない点には注意が必要です。
さらに、B Corp認証を受けたすべての企業は、スコアをB Labのサイトで公開することが求められており、3年に一度更新しなければならず、その際にスコアアップが求められます。
一方で、アセスメント内容は社会動向や世界のサステナビリティ基準の更新などにともなって更新されます。したがって、定期的にアセスメントを実施することは自社の改善状況の把握はもちろん、常に最新の社会動向や基準に沿った事業展開ができているかどうかを確認することにもつながります。
B Corp認証を検討する際には、自社が重点的に取り組める(取り組みたい)項目から改善していくのが現実的かと思います。
また、取り組みを実際に遂行し、継続させる担当部署の理解と協力が不可欠となることにも留意が必要です。
B Corpの核となるDEI ~ Diversity, Equity, Inclusion ~
B Corpは、「インクルージョンをいかに拡張し、公正なシステムをいかにデザインし、コミュニティのなかでいかに多様性を促進するか」という点に主眼が置かれています。
そのため、DEIの達成度が常に評価されます。
★Diviersity/多様性
人口統計的な違いと、考え方・働き方・コミュニケーションの仕方・生き方などの経験上の違いの両方を指す「多様性」が、どこまで実現しているか。
★Equity/公平性
全ての人がおなじように扱われる平等性ではなく、すべての人がそれぞれの個人的な欲求や境遇に基づいて扱われる公平性が、どこまで実現しているか。
★Inclusion/インクルージョン/包摂
ありのままの個人を受け入れ、それぞれの人が成長し、それぞれに十全に参加する場が、どこまで実現しているか。
アメリカのような多民族国家ではない日本では、DEIの必要性はピンとこないかもしれませんが、ジェンダーや障がい者、外国籍従業員、特別な配慮が必要な人たちなど、検討すべき点はたくさんあるはずです。
B Corp認証に取り組む意義
B Corp認証は、企業の今後の計画については考慮されず、実際に取り組んだ内容のみが評価されます。
その過程では、自分たちがこれまでいったいどこを向いて、誰のためにビジネスをしてきたのか、そして、それが本当に自分たちがやりたいことだったのか、深く内省を迫られることになります。
B Corpは企業のあり方そのものが評価されるという点で、昨今よく取り上げられる「パーパス経営」ととても親和性があります。
ビズデザイン大阪では、企業のCSRの取り組みを支援してきましたが、その取り組みが企業理念や企業トップの発言で留まっていることが多く、方針などを策定しても、現場レベルにまで内部化・可視化されて実践されている企業は非常に稀です。
企業のパーパス(存在意義)を見つめなおし、それを従業員や地域社会も含めたステークホルダー全体で共有するために、B Corpは非常に具体的で有用な方法論だと感じています。
先述のとおり、B Corpは、継続的に事業内容の改善が必要となり、その範囲も社内のみならず、すべてのステークホルダーを配慮しなければなりません。
実務担当の役割や負担はかなり大きくなります。
したがって、B Corpを活用・検討するには、ある程度の向き不向きがあると思います。
一方で、無料のアセスメントツールであるBIAは社内レベルのチェックや他社との比較に利用することも可能で、着手は比較的容易です。
B Corpを担当する(できる)担当部署(もちろん兼務でOK)があり、社内全体でその取り組みを継続していきたいという企業があれば、ビズデザイン大阪も伴走させていただきたいと考えています。
次回コラムでは、より具体的な評価基準と、認証を得ることのメリットを紹介します。
【B Corp①】ビジネスでより良い社会を目指すアセスメント「B Corp」の概要 ←今ここ
尚、今回のB Corpについてのシリーズ記事は、以下の書籍を参照しながら執筆しました。
『The B-Corp Handbook よいビジネスの計測・実践・改善』
著:ライアン・ハニーマン ティファニー・ジャナ
訳:B Corpハンドブック 翻訳ゼミ
監訳:鳥居希 矢代真也 若林恵
発行・販売:バリューブックス・パブリッシング
2022年6月1日 第1版 第1刷 発行
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